2010年11月20日土曜日

光軸の保証が出来ない

今回は思いつくままに。

前玉がよーく伸びてくる昨今のズームレンズ。しかしこの前玉は決して軽いものではありません。望遠側ではこの前玉でパワーを稼ぐため、画質に関してかなり重要なファクターを握っていると言っても過言ではない部分。

さて当然ながら地球では重力が働きます。上にあるものは下へ落ちようとします。ぐーんと伸びてきた前玉は地面へ向かって落っこちようとします。これを支えているのが機械的な支持部分。ところが先述したとおりで前玉はとても重く、しかも伸びる量が多くなればモーメント(距離と力の積)は尋常でない値になります(絶対的な数値は小さいかもしれないけど、支えている機構からすれば過大な負荷になりうる)。

マクロレンズだって全群繰り出し方式では負荷がかかるという主張は間違っていません。しかしズームレンズは先頭の玉が非常に重いこと。しかもズームは後群を残して重い前群だけが前に行きます。マクロで繰り出す場合は前玉だけでなく全群が繰り出されます。これは鏡筒全体でしっかり支えられます。後群を残していくズームでは前群を限られた鏡筒の一部分でしか支えられません。

この結果として前群は設計段階で考慮されなかったシフト(レンズが光軸に垂直にずれること。もう少し詳しく述べると下方へのシフト)を起こします。この(ズームレンズの)場合では下方へのティルト―弧を描くようにレンズが下方へもたげる―も同時に起こします。このため設計屋からは「光軸の保証が出来ない(=設計値通りの描写は不可能)」と言われるのです。

もちろん強度を持たせれば保証できるのですが、かなり大型のズームになってしまうでしょう。また保証が出来ないことと実用にならないことは別問題ですし、そもそも各人によって許容範囲が異なります。そうは言っても理論と現実には(程度はいろいろですが)差が生じてしまうものです。そしてその差が明瞭に見えてしまうのが昨今の高画素デジタル一眼レフカメラなのです。

上に述べたような機構的な制約により、特に前玉がよく伸びるズームレンズでは光学系が設計通りの数値を発揮しているとは限らないのです(というかほぼ無理)。中玉だけが移動するズームレンズでも一部は中玉のシフト・ティルトを生じることがあります(原因は前玉の時と同じく、中玉にかかるモーメントを機構部分で支えきれない)。

機構的にも弱いズームですが、光学的にも制約の多いズームレンズ。昨今の高画素デジタル一眼レフカメラには画質の面で完全にミスマッチ。最低限メーカに調整を依頼しなければならず、それもかなり綿密な調整が必要となります(組み込み時に生じるシフト・ティルトが問題となってしまうのでガラスの枚数が多いズームが不利。むろん片ボケも生じやすい。そもそも単焦点レンズでガラス枚数が少ないとしても、組み込みの腕が高くなければ画質に影響を及ぼすことがある)。しっかり調整すれば高画素を存分に発揮して中判カメラにも迫る描写を見せてくれます。しかし通常ここまでの調整をしてもらえることは稀なこと。

ではどうするか。初めからしっかりとした機構と確かな光学設計、高い組み立て精度を求めること(因みに。最近流行りの非球面レンズは光軸に対して球面レンズよりもかなり敏感で安定性が低い)。そしてアフターケアが相当しっかりしていること。このようなメーカの商品は値段が高いのですが、高画素デジタル一眼レフカメラの実力を十分に発揮しようとすれば、この選択に行き着くのは私からすると当然のことです。

みなさんはどうしますか。

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